永遠のロックギター少年、Tommy Tommyとオールド・レスポール
日本のギター業界への貢献 カスタムメイドギターへのアプローチ
遥かなるギターの旅路
Produced by きのした
この時期、トミーはもう一つ画期的な軌跡を残しています。それは個人ギタービルダーにカスタムメイドギターを製作してもらう事です。彼が日頃、愛用のオールドギターのメンテナンスやリペアを依頼していた、とあるビルダーの腕を見込んで、レスポールのレプリカ(複製)製作を依頼します。木は極上の材、部品は全て50年代ギブソンのものを使用、手間と時間を充分にかけ、相応の金額で…という条件だったそうです。
個人ビルダーにレプリカ製作を依頼した、というのは、大量生産メーカーでは対応できない部分の細かな詰めを求めた結果ではないかと思います。
もう一つ考えられるのは、その頃から始まったオールドギターの高騰への反発でしょう。1980年前後、レスポールSTD1959年型は、既に平均300万円前後まで値上がりしていました。現在その適性平均価格は650万円前後と言われています。MAMA DOOのバンドメイト、野澤文明氏にも、トミーはその異常さに不満を洩らしていたそうです。「ギターは楽器であって、弾くためにあるもんだ。金儲けの対象じゃないんだよ。今じゃ本当に必要としてるギタリストの手許には渡らず、鳴らせもしない金持ちのものになるなんておかしいよ。」と…。
およそ1年かけて製作されたそのギターは本物と異なる部位があったといいますが、軽量で素晴らしい鳴りを持ったギターでした。事実、リハーサル等を収録した極悪な録音状態のテープを聴いても、6弦から1弦まではっきり聴き分けられるそのサウンドは、全くオールドレスポールに引けをとっていません。
トミーはこの面でも人より数十年も先を行っていた訳です。
このギターはMAMA DOO時代に愛用されていたようです。
このギターも義之さんの手許に大切に保管されています。
レプリカ(複製)はいけない?
トミーはレプリカ(複製)のレスポールを使っていた事に後ろめたさを感じていたようです。
確かに日本製のカスタムギターにギブソンのブランドマークを入れていたのですから、それも理解できます。
実際、この辺りの見解は人によって異なるでしょう。
レプリカを一言で「贋物(にせもの)」と断じる人もいます。
しかしながら「贋物」を「本物」と偽り、それで利益を得た場合は明らかに詐欺罪に問われるでしょうが、自分だけが使う場合、これは適用されません。
事実、レプリカをステージやツアーで使用している現役ギタリストは枚挙の暇がない程です。
これは別に珍しい事ではありません。現在使用されている楽器、特に稀少性の高いものや古い楽器、例えば17,8世紀のチェンバロやヴァイオリンなどは、殆ど一級の腕を持つ製作者がコツコツと腕を振るったレプリカが使用されている訳ですから、トミーが後ろめたい思いを抱く必要など、更々なかった筈なのですが…。
ここ数年、オールドレスポールの高騰に伴い、腕利きのビルダーに最上の材料でレプリカ(複製)を製作してもらうという流れがあります。
エリオット、マックス、マイケル・ドレスナー、トム・マーフィーなどの個人ビルダーの名が世界中のレスポール・マニアの間で取り沙汰され、かなりの高額で取引されています。
ZZトップのビリー・ギボンズが、アールワインというビルダーに依頼して製作された、と言われるレプリカも見た事があります。こうした傾向は、レスポールというギターに、また、レスポール愛好者に特に見受けられる傾向です。
フェンダー・ストラトキャスター・タイプのレプリカなんて、余りにも当たり前で話題にもならないというのに、レスポールだけが騒がれるのは一体何故でしょうか?その理由はいくつか考えられます。
1. 構造的な美点と高い技術力が生んだサウンドの素晴らしさ
2. 高い技術力とセンスによって表現された、美術品ともいえる容姿
3. 稀少性による入手の難しさ
こうした美点を理解してすら、トミーの反骨精神は、想像を絶する異常な価格高騰を看過できなかったのでしょう。
言ってみれば、「反逆の音楽、ロックンロールをブルジョア層しか買えないギターでプレイする」のは、ロックと言う音楽の本質から考えれば、大きな矛盾ではあります。しかし、耳が覚えてしまったサウンドを諦められる訳もなく、素晴らしいサウンドを出せるギターを捜した結果の一つがカスタムメイド・ギターとなったのでしょう。